乳なし仁王

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仁王さまというと、お寺の門の中に、おおきな目でにらんで立っているのをみたことがあるでしょう。この仁王さまや、仏像を彫る人を仏師といいます。
今から800年ものむかし(鎌倉時代)のことです。京都に運慶という仏師がいました。

運慶のお父さんも仏師で、たいへんじょうずなことで有名でした。運慶は小さいころからお父さんの仕事を見たりてつだったりしていましたから、15歳のころには、一人前に、お寺の仏像などをほるようになっていたのです。

(中略)

ある日、都から使いの者がやってきて、ある有名なお寺の門の「力士像」をほってほしいとたのみました。ちょうどおなじころに、鎌倉の執権さまからも、将軍さまのために仏像をほってほしいといってきたのです。

運慶はどちらを先にほったらいいのかわからず、困ってしまいました。その時、お母さんは重い病気で寝こんでいたのですが、運慶の困ったようすに気づきました。

「どうしたのですか、そんな顔をして。」

「いえ、何でもありません。今とりかかっているほり物がうまくいかないだけです。」と、心配をかけないようにいうと、

「都へ行きなさい。お父さんの作や、ほかの多くの仏師の作をみることができます。きっと、あなたの力のたしになるでしょう。」と、なにも知らないお母さんは、心からいいました。そして、

「もし、わたしが死んだら、かみの毛だけでも、都のお父さんのお墓にうめてください。」というと、まもなくお母さんは、むすこに手をとられたままなくなりました。

(中略)

運慶は、旅のしたくもそこそこに、鎌倉をはなれました。そして、足のむくままに歩きはじめました。

武蔵をすぎ、下総の国の市川につきました。こんもりと木々につつまれた「御門」という村にはいりますと、お寺がたくさんあります。運慶は「浄光寺」という寺の山門をくぐりました。そこには、白いひげの和尚さんが庭をはいていました。

「旅の者ですが、少し休ませてくれるでしょうか。」

「はいはい、どうぞ休んでいきなされ。」

と、お茶までごちそうになりました。運慶は休んでいる間に、はいってきた山門をゆっくり見なおすと、古くて、だいぶいたんでいます。

「あの門は、ずいぶん古くなっていますね。」

「はいはい、だいぶくたびれております。こんど、村の人たちが新しいのを寄進してくれるそうじゃから、それまでのしんぼうです。」

その時、運慶は、鎌倉でなくなったお母さんを思い出していました。

「和尚さま、私は仏師です。母の供養のためにも、仁王さまを一つほらしてください。」

「おう、それはねがってもないことじゃ。」

ということで、運慶は、浄光寺にいることになりました。

こつこつとほり始めた運慶は、夜になったのもわすれて、ほり続けました。何日かたつと、運慶のからだはやせ細り、目はおちくぼんでしまって、まるで、ちがう人のようにみえました。

あと少しで、できあがるという時でした。急に死んだお母さんが、目の前にあらわれました。

「あっ、おかあさん。」

思わず立ち上がりましたが、何も見えません。夢かと思って、またほり続けようとしました。

「あっ。」

手が滑って、仁王さまの乳をそぎおとしてしまいまったのでした。

「ああ、なんということだ。・・・・・・・」

(省略)

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