飼育研究レポート

高齢マンドリルの生活環境について

はじめに

  サル舎にいるマンドリルのジョディを知っていますか? メスで年齢は33歳、国内の動物園では現在約70頭のマンドリルが飼育されていますが、そのなかで30歳を超えているのは3頭だけです(2024年2月15日現在)。飼育下のマンドリルの寿命は25~30歳とされていることから考えても、ジョディはとっても長生きしているということがわかります。

※マンドリルの国内での累計飼育個体数:約350頭

 30歳以上まで生存した個体数:7頭

 →30歳以上まで生きる確率は全体の2%程度

(公益社団法人日本動物園水族館協会 2022年マンドリル国内血統登録簿より算出)

 人が大好きで、呼ぶと近くまで来てくれたりするジョディは、来園者の方々からもとても愛されています。ですが1頭だけでいると「さびしそう」とか「たいくつそう」と言われてしまうこともよくあります。残された時間が少ないこともあり、ジョディのことを皆さんにもっとよく知ってもらえるように、ここで少しご紹介したいと思います。

ジョディの写真
最近のジョディ
最近のジョディ
ぱっちりした目がかわいらしく高齢には思われないことも多い

現在のマンドリル舎に来るまで

 ジョディは1990年、北海道の札幌市円山動物園で生まれました。市川にきたのは1996年です。もとからいたオスのゴンとペアになり、出産も経験しました。

 2013年、ジョディが23歳の時にゴンが死亡しました(死亡時25歳)。1頭になってさびしさはあったかもしれませんが、ジョディはゴンにとても気を使ってもいたので、気楽にのんびり暮らせるようになったようにもみえました。

 2頭でいたときにはそれなりに広い部屋にいました。現在ワオキツネザルファミリーが使っている部屋です。この時、園で話し合いを行い今後の方針として、ジョディはすでに高齢なので新たにオスを導入したりはせず気楽に余生を過ごしてもらうこと、またサル山ほどではなくても十分な活動ができる床面積のある動物舎が用意できない限りマンドリルの導入はしないことを決めました。

 1頭での暮らしが1年を過ぎるころから、食欲は変わらないのに以前のような活発さが減り徐々に痩せて見えるようになりました。そして2015年にひどく体調を崩し、入院することになってしまいました(入院時体重約7.5キロ)。このときは年齢のこともあり私たちも覚悟を決めましたが、温度環境の整備された入院室の環境がジョディには適していたのか退院時はとても元気になっていました(退院時体重11.5キロ)。そこで担当者と獣医とで話し合い、入院中の環境に近い、それほど広くはないが暖かい部屋が今のジョディには良いのではないかと判断し、現在の部屋に戻すことにしました。放飼場は前よりせまくはなりましたが、むしろ居心地よさそうで落ち着いて過ごせています。放飼場と寝室の出入りはできるだけ自由にし、寒い時には外でも赤外線ランプで暖まれるように改修しました。

旧マンドリル舎
旧マンドリル舎。現在はワオキツネザルが使っています。
現在のマンドリル舎
仕切られている右側が現在のマンドリル舎です。

30歳を超えて

 生活場所を現在の場所に変えてから体調はとても安定し毛艶も良く、多少太り気味ではありましたがのんびりと過ごしていました。しがし30歳をすぎてからは不正出血がみられるようになりました。現在でも治療を続けているのですが出血は続いています。このことについても担当者、獣医で何度も話し合い、おそらく子宮などの生殖器系になんらかの異常があるのではないかと考えています。しかしそれを確認するためには麻酔をかけて検査をする必要があり、高齢のジョディにはかなりの負担になってしまいます。幸い普段の食欲や活力は問題ないので、毎日の観察をしっかり続けながら投薬で様子をみていこうという方針になりました。

2023年の夏、今度はひどい便秘になり、生きるか死ぬかのところまでいってしまいました。マンドリルは本来木の葉や皮、小枝などを普通に食べます。ジョディも大好きなので週に数回カシの枝葉を与えていたのですが、現在のジョディには、多量の繊維質を消化することは少しきつくなってきたようです。

その後も便秘には特に気を付けるようにしています。

カシの木の写真
園内にあるカシの木、他のサルたちにも枝や葉を与えています。

一進一退の取り組み

「一度大きく体調を崩せば命に関わる」という心配からこれまでは正直積極的な変化を起こせずにいましたが、来園者の方から「狭い部屋でやることもなく過ごしているジョディがかわいそう」「楽しめる工夫をしてほしい」という意見を頂くこともあり、ジョディの体調と相談しながらですがたいくつしないように止まり木を増やしたり、自然木を使って立体的に動けるようにしたり、落ち葉プールを作ってみたり、いろいろなことを試してみました。

 ジョディの現状を前提に新しいものを設置するときに念頭に置いているいることがあります。

1つ目は、歩行の邪魔をしないということです。マンドリルは地面をよく歩くサルです。遊具を設置しても歩くことの邪魔になってしまったら本末転倒です。歩くことを邪魔せずに、何か変化を与えてあげられないかを考えるようにしています。

2つ目は、口にしてしまう止まり木などの設置は慎重に行うということです。マンドリルはかじるのが大好きです。設置する止まり木などは、かじって食べてしまってもこれまでは特に問題はありませんでした。かじることはストレス解消にもなり、とても楽しそうなのでどんどんやらせてあげたいのですが、ジョディの場合はそれが便秘につながってしまうため「かじらせつつも、かじりすぎない」といったバランスに配慮をしています。

3つ目は、ジョディの年齢、性格、持病を考慮するということです。高齢のジョディは、アクティブに運動するというよりは、安定したところを歩き、つかまりやすいオリを使って上り下りすることを好んでいるように思います。これはジョディの個性なのかもしれませんが、若い時からユラユラするものや立体的で足場が不安定なものは嫌がる傾向が見られました。また、現在は特にいつもと違う動きをすることで不正出血の量が増えてしまうようです。

このようなことから、一度設置したものでも翌日以降の体調や排便の状態を見て、危険と判断したものは取ってしまうようにしています。

放飼場の写真
高いところに板を渡して歩けるようにしてみたがほぼ使用せず。さらに、柔らかい材質だったためかじって食べてしまい、便秘気味になってきたため撤去。
落ち葉プールの写真
落ち葉プールは中にかくしたエサなどをゴソゴソ探すのが楽しそう。落ち葉も食べてしまうので食べ過ぎないように量を少なめにし、毎日は置かないようにしている。
止まり木の写真
何度か自然木を使って立体的に動ける道を作ってみたが、毎回1か月くらい様子をみてもまったく使用せず、むしろ邪魔そうにしていたので撤去。

さいごに

  今後の予定として遊具の検討に加え、隣にいるワオキツネザルの展示を別の場所に移し2つの放飼場を合体させてジョディに使ってもらうこと等を検討しています。しかし環境を変えることはジョディにとってプラスになることも多い反面、大きなリスクを伴ってしまうことがあります。今後も様子を見ながら少しずつ本当の意味でジョディのためになるような工夫を続けていきたと思います。ぜひあたたかく見守っていただければ幸いです。

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