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スマトラオランウータンの繁殖について(妊娠~育児)

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更新日: 2018年10月27日
スーミー妊娠

22日の初交尾以来、さらに同居を重ねていきました。
来園から10年、やっと交尾にたどりついたイーバンですが、ひと月もすると同居をしても交尾
をしない時期が出てきました。そういう時彼らは何をしているのかというと、寄り添って
お互いに毛づくろいをしていることがよくありました。それはまるで、これまでの空白を
穴埋めしているかのようなとても仲睦ましい光景でした。

とはいえそれでは子作りも進みません。そこで一計を案じた私たちはある作戦に出ました。
まずメンスから排卵の予定日を予測し予定日の数日前からあえて同居を中断します。
そして排卵予定日に満を持して同居を行うというものです。この作戦が見事に当たり
12月の30日、31日の2日間でそれぞれ交尾が見られ翌2003年1月には見事妊娠が
確認されました。

オランウータンの画像1
オランウータンの画像2
 第2子リリーの場合

第2子の場合は2度目という事もあり、よりスムーズに進みました。第1子のウータンは6歳に
なるまで母親のスーミーと一緒に生活していましたが、2009年10月にオランウータン舎の
増設工事が始まったことがきっかけで、親子を分けることとなりました。これまでは母親に
合わせて部屋の出入りなどの行動をしていたウータンが自らの意思で動くことが顕著に
なったからです。

ウータンと離れたスーミーには数週間後とても強いメンスが来ました。排卵予定日までには
毛の艶も増し2002年のあの頃を思い出させる顔付きをしていることに気がつきました。
ウータンと離れたことで次の妊娠に向け体が変化しているようでした。この時出産日を逆算
してみるとおおよそ7月の後半となり、それならば気候的にも安心との判断から、急遽
イーバンとスーミーの同居を行いました。

すると首尾よく交尾が確認され、さらに翌月には妊娠も確認されました。
ウータンと別れた頃のスーミー(2009年10月12日撮影)
オランウータンの画像3
同居当日のスーミー(2009年11月16日撮影)
オランウータンの画像4
 妊娠の確認方法

オランウータンは自然界でもオスとメスが一緒に育児をすることはありません。そこで妊娠の
疑いを抱いた時点でイーバンとの同居は控えるようにしました。第1子の場合は最終交尾日
より11日目、第2子の場合は7日目でした。

また、オランウータンの場合、市販のヒト用妊娠判定キットで妊娠を確認する事が
出来ます。スーミーの場合も2度とも交尾後約3週間目に妊娠判定キットで検査をして妊娠
を確認しました。さらに尿からHCGやE3といったホルモン量を測定することで妊娠の継続
を確認出来ます。またさらに妊娠後1か月も過ぎると陰部に変化が現れるなど外見の変化も
出始め多角的に妊娠が確認できます。

オランウータンの妊娠期間は最終交尾日より245日±5日です。妊娠の経過は人と
ほぼ同様の経過をたどるのではないかと思い、食事のバランスや精神的に落ち着いた日々
が過ごせるよう心がけました。

初めての出産

第1子ウータンが誕生したのは2003年9月4日のことでした。スーミーは当日昼過ぎより
そわそわし始め夕方には陣痛が始まり部屋の隅にうずくまってしまいました。

そして5時間近く経過した18時40分、無事に出産しました。出産自体はとても安産でした。
しかしここで困った問題がひとつ起きました。経験のないスーミーは授乳を理解していない
ようなのです。

出産後、反射的に仔の口を吸って呼吸を促したのですが、そこでどうやら「口を吸えばいい」
と誤解してしまったようでした。そのために便利な場所を探したのか、スーミーはなんと仔を
頭の上に載せるようになってしまったのです。出産で疲れたのかスーミーは仔を頭の上に
置き仰向けで寝ています。

「これは困ったな・・」と思ったのですが、落ち着きもあり仔も元気なので私たちは静かに
成り行きを見守ることにしたのです。

初めに動いたのは仔の方でした。人間の赤ちゃん同様、乳児には手に触れたものをつかむ
口に触れたものを吸うといった本能的な反射行動があり徐々に肩口、そして乳首の方へと
移動していきました。

出産から12時間が経過したとき赤ちゃんはようやく乳首までたどり着いたのですが
乳首を吸う音で目を覚ましたスーミーは「なんでそこにいるの?」とばかりに頭の上に
戻してしまいます。

このやりとりを何度も繰り返していましたが、36時間近く経過した後ようやく授乳することが
できました。

※オランウータンの出産エピソードをご参照ください。
 
育児の様子
出産当初、授乳という行為も分からなかったスーミーでしたがその後の育児は非常に熱心
なものでした。育児を始めたスーミーの表情はとても穏やかで、それは愛情あふれる
母親の表情そのものでした。授乳をすることで母性が強まっていくように感じました。

オランウータンの仔はこの頃ずっと母親の体にしがみつき、まるで体の一部のように
見えます。スーミーも、第1子ウータンの時は約3か月の期間、自分の体から離す事が
ありませんでした。

第2子リリーの時も同じように大切にしてはいるのですが、2度目ということでの慣れか、
また猛暑が続いていたためか、どこかあっさりとした印象がありました。

※第1子ウータンの育児の様子は、飼育研究レポートオランウータンの子育て日誌(2003)
 オランウータンの子育て日誌(2004)をご参照ください。
2003年9月9日撮影
オランウータン母子の画像
2010年8月23日撮影
オランウータン母子の画像
2003年12月26日撮影
オランウータン母子の画像
2010年10月12日撮影
オランウータン母子の画像
 おわりに

来園当時、私たちは「2頭の相性は最悪、このままでは繁殖も望めないのでは・・」という状況
を作り出してしまいました。このとき実績ある他園の先輩方より、積み重ねてきた経験や
知恵から多くの助言をいただきました。

そこで私たちがとった対応策は“しっかりと期間を空け彼らの体と心が十分に成長するのを
待ち、改めて関係作りを進めていく“というものでした。

想定される結果としては、当然成功か失敗のどちらかとなるわけです。今回、結果として2頭
の間に繁殖も見られ順調に生育も行われている事は本当に幸いなことです。
しかし逆のケースも考えておく必要がありました。もしも2頭の間で結果が出ないとなった
場合私たちが次に用意していた方策は、第1に国内他個体とのペアリングを進めるという
ことでした。

2頭間の関係改善は確かに重要です。しかしそれよりも大切なのは彼らがオランウータン
として健康で健全な成長を遂げ仮に相手が変わったとしても繁殖に参加できる状態で
いてくれることなのです。本来50年はあると思われるオランウータンの、国内飼育下での
寿命は平均すると25歳に届かないのが実情だからです。

4歳半からの約10年間、私たちは彼らに交尾の機会も育児を学ぶチャンスも与える事は
出来ませんでした。それでも自然な行為としてそれらは行われました。

当初、スーミーに対して気遣いも遠慮もなく未熟で直線的だったイーバンは心身の成長に
伴い、かけひきの上手さ、強さ、さらには相手への気遣いが出来るようになりました。
第1子出産時、授乳を知らなかったスーミーが仔の働きかけに落ち着いて対処し、自ら
授乳・育児に気が付いたことも、確かめることは出来ませんが年齢を重ねていたことも
手助けのひとつとなったのかもしれません。

こうした経緯を積み重ね、現在も日々の暮らしを続ける彼らですが、出来るなら将来
スーミーにまた子供が生まれ、さらにはウータンやリリーが新たに繁殖に参加することで
動物園のスマトラオランウータンたちがこの先も生き残る手助けになってほしいと
願っています。