はじめに
2008年は、6月20日、21日、9月1日に計3頭のメスが生まれましたが、6月20日生まれの仔が母ザルに育児放棄されてしまい、飼育員が育てることになりました。
誕生当日

通常は出入り自由な状態で、夜間も舎内と放飼場の行き来が出来ます。 6月20日朝、サル山内の個体確認に行ったところ、放飼場に入る人用の出入口付近で1頭の生まれたばかりの仔ザルと、それに付き添うようにしている1頭のメスのサルがいました。 |
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このメスは明らかにお母さんではありません。 というのは、出産にともなう出血の跡がないこと、何よりこのメスは仔育てのベテランで、面倒をみないということは考えられません。 産み落とされたこの仔ザルをかばっていただけで、育てることはできません。 この仔は、体も乾き、両手で体を起こし「ギャーギャー」と大きな声で鳴いていて、見たところ、かなりしっかりしていました。そこで、取り上げて、人工哺育(人の手で育てる)で育てることにしました。 |
保育
へその緒を処置していったん保育器で体を温めます。

「オトメ」と名付け哺育を始めました。
人用粉ミルクを使用し、最初は1回7~8ccほどの量でしたが、数日後には3~4倍になり、1ヵ月後には1日200ccを飲み干すまでになりました。
この頃になると小さく切ったリンゴをかじるようになりました。
2ヶ月もするとリンゴ、イモ、ニンジン、固形飼料などをよく食べるようになりました。
オトメがしがみつく相手は、タオルやヌイグルミです。
最初はタオルにしがみつき、丸くなっていましたが、歩くようになってからは、ハンモック状につるしたタオルの中で眠り、そこから出てくると与えたヌイグルミにつかまっていました。
中でも自分より大きな黄色いクマのヌイグルミがお気に入りで、よく上に乗るようになりました。

群れへの仲間入り
生後2ヶ月が過ぎた8月下旬、動作も活発になり、与えた餌も積極的によく食べるようになったのを機に移動可能なケージを使い、サル山で他のサル達と顔見せを始めました。 あまり動じた様子はなく、サル達の大きな声にもすぐに慣れました。 さらに1ヶ月が過ぎた9月下旬より、サル山放飼場内に大型のケージを設置し、手を出せばサル達と接触できるようにしました。 この頃にはお気に入りのクマのヌイグルミを自分で連れ歩くようになりました。 3ヶ月間の授乳も終わり、ケージ越しながら一緒に餌を食べるオトメにサル達は、一緒にいることを許容したようです。同年生まれの仔ザル、ミミとマルコはケージに近づき手を入れて触れ合うまでになりました。 |
2009年1月下旬より放飼場内に出て餌を食べる練習を始めました。 ヌイグルミを連れた変わった仔ザルに他のサル達はけげんそうにするものの、その距離は徐々に縮まっていきました。 |
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このヌイグルミは、まさに自分を助けてくれるお母さんです。
放飼場に出て2ヶ月が過ぎました。
オトメはサル達に受け入れられたようです。
行動範囲も広がり、同年生まれミミ、マルコとじゃれあう姿も見られます。
もちろんお母さんのクマのヌイグルミはいつも一緒です。
まとめ
ニホンザルの人工哺育は、群れへの復帰が困難です。 今回の場合は、当初から群れへ戻すということが前提の人工哺育を行いました。 しかし、人が育てるわけですから、それが群れに戻す時の大きな弊害になる場合があります。 それだけでも心身に危険が及ぶことになります。 |
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おびえた状態の仔ザルは群れのサル達からも受け入れ難く、いじめられる可能性も大きいです。 そのため、オトメの哺育は、ある程度育った時期から過度な接触を避け、自立を促すようにしました。 実際、ニホンザルのお母さんは仔ザルを危険から守ることはしますが、決して過保護な育児はしません。 ヌイグルミと共にサル山デビューしたオトメ。 |
