ユートピア文学の系譜

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「ユートピア」という言葉は、もともと16世紀のイギリス人トマス・モアが書いた本の題名で、物語中に登場する架空の国の名前であり、ラテン語で「どこにもない場所」という意味の造語です。モアはその国を理想の国家として描き、それに照らして当時の国家、社会の現実を痛烈に批判しました。それ以来、「ユートピア」という言葉は現実の社会よりも優れた、理想的な社会、またはそのように見える社会の構想のことを指すようになり、主にヨーロッパにおいて「ユートピア文学」という新たな潮流を作り出しました。

21世紀は、発達した科学技術が人間の自由や尊厳を脅かし、自然を破壊するといった暗い未来なのでしょうか。19世紀末から戦後期にかけて現れた「ユートピア文学」の古典と言われる作品の中から、私たちの世界がこれから辿り得る可能性がある、数々のユートピアとディストピア(アンチ・ユートピア)を、今回の世紀末特集の一端として、ご紹介いたします。

  • ※この特集展示は、1999(平成11)年9月から12月にかけて、中央図書館で開催されました。

「ユートピア文学の系譜」リスト

1.古典(19世紀末から第一次世界大戦頃)

年代 作品名 著者名 出版社
作品紹介
1872 「エレホン」 サミュエル・バトラー 岩波文庫
山脈を越えて入り込んだ世界は、機械を所持することや病気を患うことが罪になるユートピアだった。ユートピア小説の古典。
1888 「顧りみれば」 ベラミ 岩波文庫
西暦2000年を舞台にした「ユートピア文学」の古典的作品。小説の中の理想的社会と来年2000年を迎える現実の社会との隔たりに読者はどう思うか。
1890 「ユートピアだより」 ウィリアム・モリス 岩波文庫
ウィリアム・モリスは、デザイン等の工芸家で有名であるが、社会主義論者としても名を残している。中世的で牧歌的な理想郷を描くユートピア小説の古典。
1895 「タイム・マシン」 H・G・ウェルズ 岩波文庫ほか
80万年後の人類の未来とはいかなるものであるかを描き出した不朽の名作。遺伝子操作による二種類の人類の未来を描く古典的傑作とも言われている。
1898 「モロー博士の島」 H・G・ウェルズ 早川文庫ほか
絶海の孤島を舞台に科学の発達とその倫理および進化論の妥当性をめぐって展開する名作。
1905 「モダン・ユートピア」 H・G・ウェルズ
ウェルズが社会主義者として、または社会学者として、頭角をあらわした当時の著作。
1908 「対極」 アルフレート・クビーン 法制大学出版
画家でもあるクビーンの銅版画作品は幻覚や悪夢をそのテーマとする特異な作品が多い。そんな彼による唯一の小説。広大な中央アジアのただ中に、オーストリア人パーテラによって密かに建設された「夢の国」ペルレ。画家である主人公はその国に招かれ、住むことになるのだが…。
1911 「南十字星共和国」 ワレリイ・ブリューソフ 白水社
南極大陸にうちたてられた新国家「南十字星共和国」は、全世界の金属精錬のほとんどを独占する裕福な国家であった。ところが奇妙な伝染病が蔓延しはじめて…。非常に頽廃的な作品。
1913 「小遊星物語」
(レザペンディオ)
パウル・シェーアバルト 平凡社
星と星をつなぐ塔を建設する一大建築事業に没頭するパラス星の指導者を描いた古典的作品。著者は晩年の著作「ガラス建築」により、ブルーノ・タウトやグロピウス等、第一次大戦後の建築家世代に大きな影響を与えた。
1914 「解放された世界」 H・G・ウェルズ 岩波文庫ほか
世界大戦勃発はウェルズの著作活動にも大きな影響を与えた。戦争と国家から解放された、人権による世界国家成立へ至る道を描く思想小説。
1919 「流刑地にて」 フランツ・カフカ 角川文庫ほか
1920 「農民ユートピア旅行記」 チャヤーノフ 晶文社
1921年に世界革命を達成したあと社会主義社会は5つのブロックに分裂し、その一つであるロシアは農民ユートピア国を築いていた。

2.二つの大戦にはさまれた不安な時代

年代 作品名 著者名 出版社
作品紹介
1920 「ロボット」(R・U・R) カレル・チャペック 岩波文庫
ロボットという言葉の原典はこの戯曲からである。労働の肩代わりをしていたロボットたちが反乱を起こす。機械文明の発達が人間に何をもたらすかを考えさせる作品。
1920 「われら」 ザミャーチン 岩波文庫ほか
人々はナンバーで呼ばれ、その行動は「時間律法表」で管理され、愛情・生殖も国家の統制下にある。驚愕の未来都市の情景を描く「ユートピア文学」の古典的作品。
1922 「絶対子工場」 カレル・チャペック 木魂社
原子力の利用に問題を投げかけ、その恐るべき災害を予測した問題作。
1926 「城」 フランツ・カフカ 岩波文庫ほか
1926 映画「メトロポリス」 フリッツ・ラング監督
1926 「メトロポリス」 テア・フォウ・ハルボウ 創元推理文庫
総てが機械化され、労働者たちも機械のように扱われる未来都市。その都市の支配者の息子は、労働者の啓蒙家であるマリアに出会って…。
1932 「すばらしき新世界」 オルダス・ハクスレー 講談社文庫
機械文明の発達の末、いきついた「すばらしい世界」とは。テクノクラシーによる地獄をえがいた逆(アンチ)ユートピア小説の傑作。
1936 「山椒魚戦争」 カレル・チャペック 岩波文庫ほか
南洋の入り江で発見された歩く山椒魚は高い知能を有し、人類に使役させられていたが…。人間社会の愚かさを描く名作。
1938 「カタロニア讃歌」 ジョージ・オーウェル 早川文庫ほか
自ら従軍したスペイン市民戦争の内情を描くルポルタージュ。この体験から後の傑作「動物農場」「1984年」が生まれてくる。
1943 「ガラス玉演技」 ヘルマン・ヘッセ 角川文庫ほか
25世紀のヨーロッパのある国にある教育州「カスターリエン」。学問と芸術を神聖なものとする未来の理想郷をドイツ文学の大家が描く。
1945 「動物農場」 ジョージ・オーウェル 角川文庫ほか
1949 「ヘリオポリス」 エルンスト・ユンガー 国書刊行会

3.戦後から現代へ

年代 作品名 著者名 出版社
作品紹介
1949 「1984年」 ジョージ・オーウェル 早川文庫
憎悪・恐怖・怒りなどの感情が肯定され、監視装置によって全人民が統制されている全体主義国家。わたしたちの1984年は無事に過ぎ去ったが、いつか起こりうる未来かもしれない。
1953 「華氏451度」 レイ・ブラッドベリ 早川文庫
題名の温度は、紙が自然発火する温度。書物を所持することが許されない未来世界。
1954 「蝿の王」 ウィリアム・ゴールディング 集英社文庫
イギリスから疎開する少年たちを乗せた旅客機が南太平洋の孤島に不時着した。少年たちは極限状況のもと新しい秩序ある社会を築こうとしたが…。
1962 「島」 オルダス・ハクスレー 人文書院
1970 「エペペ」 カリンティ 恒文社
1970 「丑の刻」 イワン・エフレーモフ 早川書房
愛と友情に満ちた人類統一世界を拒み、従来どおりの社会を望む狂信者たちが地球を脱出してまで築いた惑星トルマンスの異様な世界とは…。
1984 映画「1984年」 マイケル・ラドフォード監督
1986 映画「未来世紀ブラジル」 テリー・ギレアム監督
1987 「最後の物たちの国で」 ポール・オースター 白水社
1997 映画「ガタカ」 アンドリュー・ニコル監督

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