「本のほかほかだより」10号~13号

第13号 昔話について2

くまのイラスト

今、昔話は本の形で伝えられることが多くなっています。伝えられてきた話を、分かりやすい言葉で書き直しているわけですが、実に様々なものがあります。もともと昔話は、話の筋だけでどんどん物語が進んでいくもので、細かい情景や、その時主人公はどう思ったかなどの心理描写はありません。筋だけの非常に素朴なものだけに、人々は自分なりに自由に発想を広げて楽しむことが出来たのでしょう。ですから、簡潔な再話のほうが、耳から聞いたときによくわかるようです。

子ども向けに書かれた再話は、残酷な部分を削除したり、書き換えたりしているものが多くあります。殺したりいじめたりという部分を子どもに見せたくないという配慮なのでしょうが果たしてそうでしょうか。まず、昔話を聞いて本当に残酷に感じるかどうかですが、「首をすぽんとはねました」と語られたところで、そのことはすぽんという擬音のせいもあってそれほど重くは感じません。また、考えている間もなく話はどんどん進んでいくわけです。

しかし、昔話が絵本という形式を取った時、語りで伝わってきたものとは違う影響力をもったことも事実でしょう。耳で聞いているとさらっと流れてしまう情景や行為もそれが絵として描かれると目に焼き付いて離れないということはあるものです。例えば、先程の所が絵になった時、はねられた首の絵があったらどうしても目がくぎづけになってしまうかもしれません。

しかし、その部分は昔話にとって一つの要素ではありますが、中心ではありません。むしろそういう悪や悪に課せられる罰を描きだすことで、子どもの中に悪や不安、恐怖などに打ち勝つ力を育むのではないでしょうか。その上、昔話は必ず善が悪に勝つ幸福な結末を持っています。主人公が罰せられて不幸になるということはありません。これは主人公に同化しながら話を聞いている子ども達には大きな力を持つのでしょう。

今回で「本のほかほかだより」は終わらせていただきます。長い間ありがとうございました。

第12号 昔話について1

おはなしのおねえさんイラスト

昔話はもともと子どもを含めたすべての人のための文学で、活字として物語が伝えられるはるか前から口伝えで伝わってきたものです。囲炉裏をかこみながらおばあちゃんにお話をしてもらうということは今ではほとんど経験することができなくなりました。それでも、お父さんのひざの上でとか、夜寝る前に話してもらったとかいう経験をもつ方もいらっしゃるのではないでしょうか。どんな形にしろ、一度は「ももたろう」や「シンデレラ」などに触れていることでしょう。大人にとっては話の流れや結末がすぐわかってしまうほど単純ですが、昔話には、幅広い年齢の子供をひきつける力があります。

昔話は、子供を日常とは違う世界に引き込みます。そこにはワクワクするような冒険や魔法があり、子供は主人公になって普段はできないような冒険をやってのけたり、見知らぬ世界を経験することが出来ます。そして必ず弱いものが強いものに勝ち、素晴らしい宝を手に入れるなどのハッピーエンドで終わるので、子供たちは安心し、満足感を得ることができるのです。昔話を聞いていると、知らず知らずのうちに勇気づけられたり励まされたりする、これは昔からの人間の知恵でもあったのでしょう。

もともとの昔話の中には方言がたくさん使われているものも多いのですが、今は誰でも語りやすいように編集されたものが出版されています(注)。たまには、絵本だけでなくお母さんがお話してあげることで昔話を楽しんでみてはいかがでしょう。

(注)
「こどもに語る日本の昔話」 こぐま社
「こどもに語るアジアの昔話」 こぐま社
「こどもに語るグリムの昔話」 こぐま社
「おはなしのろうそく」 東京子どもとしょかん

第11号 科学絵本について

最近は、写真や映像の進歩とともに特にビジュアルな科学絵本が多数出版されるようになってきました。おかげで百聞は一見にしかずというのか、今まで図や文章を使って苦労して説明していたことも、すんなりと視覚から理解できるようになっています。では、科学の絵本の役割とはなんでしょうか。

まず、科学の本ですから、事実を正確に伝えるものであることは必要条件です。どんなにすぐれた本でも、情報が古くなると子供に不正確な情報を与えることになってしまいます。新しい情報には常に目を配ることが大切です。

もう一つの役割は、子供に科学への興味を与えることです。断片的な知識を知らせるのではなく、自然界の不思議など、科学的なことに興味をもたせたり、科学的なものの見方を育てていく力のある絵本がよいでしょう。

これは、時には精密な写真がこの役割を妨げる要因になることもあります。図や文章での説明だけだと、そこに説明されていることが本当かどうか、実際のものに触れたり見たりして確かめようとする気持ちになりますが、精密な写真の場合、本に載っているそれを見ることで、全てを理解したように錯覚してしまうことがあるからです。

あっこちゃんのQ&A

質問

読み聞かせっておはなしの本じゃなくてもだいじょうぶでしょうか。

回答

科学のことを題材にしていても、ストーリー性のあるすぐれた絵本はたくさんあります。子どもは、お話の絵本、科学の絵本などと区別しているわけではありませんので、おはなしの本と同様に考えていいでしょう。おはなしの本や、大好きな題材を扱った本だけでなく、時には目先のかわった絵本をえらんでみるのも楽しいし、新たな興味の扉がひらかれるかもしれません。

第10話 赤ちゃん絵本の選び方

赤ちゃん時代に一番大事なのは、周りの大人から十分に愛情をうけることであり、絵本も最初は大人とのコミュニケーションを得る為の手段として存在します。(『本のほかほかだより第9号』参照) では、赤ちゃんのために絵本を選ぶ時は、どんな点に注意を払ったらいいのでしょう。 赤ちゃんは、様々な面で未発達の存在です。そんな状態を見守りながら、発達に合わせた喜びをもたらしてくれる本がいいですね。たとえば、絵ははっきりとしていて、明るいもの。丁寧に、温かみをもって描かれているものがいいでしょう。はっきりしているというのは、けばけばしく目を引くということではありません。美しく力のある絵ということです。

絵は1ページまたは、見開きで一つのものがはっきり描かれ、身近なものを題材にしているものがよいでしょう。言葉はリズミカルで簡潔なもの。大きさもあまり大きい本だと扱いにくいので、小型で持ちやすいものがいいでしょう。

以上のようなことを頭において選んでみてください。そしてその絵本を使って十分に親子でスキンシップをはかりながら楽しい時間を過ごしてください。

あっこちゃんのQ&A

質問

トイレトレーニングなどに使える絵本はないですか。

回答

赤ちゃんのしつけのために、絵本を利用することが多くなっているようです。たとえばトイレや歯磨きに興味をもたせる位ならよいのかもしれません。ただ、その本を見せられるとトイレを強要されるというような図が頭の中にできてしまうことは、本嫌いに発展する恐れが多く、お勧めできません。本との出会いの大切なこの時期は、本は楽しいものという感覚をぜひ、持ってもらいたいものです。

トイレにしても、歯磨きにしてもいろいろなやり方があるはず。本やビデオではかえってわかりにくいことも多いと思います。我が家ならではの方法を直接教えてあげる方がよいのではないでしょうか。

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